寒さが増す夜、
今夜も自転車置き場からマイカーを出す。
いつもの用にハンドルにライトをつけて自転車置き場の坂を降りると
ぷーぅーんと前の自転車を押す男性から香りがしてきた。
どこかで嗅いだことのある様な・・・・
「好物のたこやきの香りだ」
その自転車のハンドル右側に掛けられた袋からかおって来る。
満員電車の疲れで堅くなった背中から力が抜けていくのを感じる。
その香りに惹かれて前を走る男性の跡をついてペダルを漕ぐ。
まったく追いつかない早さで男性はどんどん小さくなっていく、
と同時にたこ焼きの香りも薄くなりもう追跡が不可能になった。
「あのたこ焼き、晩ご飯なのかな。子供へのお土産なのかな」
思い切りペダルを漕いだお陰でもう私は家の側まで来ていた。