郵便ポストで好きな話が二つある。
一つは向田邦子さんのエッセイ。
近所の郵便ポストの前に中学生くらいの女の子がずっと立っている。
何を深刻そうに立っているのかと部屋の窓から観察していると、
郵便の集荷の車が来て集荷係の人に自分がポストに投函した手紙をやっぱり出せないので返して欲しいという。
投函したけれど思い直し、集荷係を待っていた少女の話。
もう一つは、漫画家のみつはしちかこさんの「チッチとサリー」にあった。
想いを伝えたいチッチはラブレターを書くのだがポストに投函する勇気がない、
そこで投函する練習に手紙に糸をつけてポストに投函してみる。
何度かやってみるのだが、やっぱりダメだと糸を手繰り寄せて、ラブレターは投函しないで終わる。
ラブレターには切ない想いが染み込んでいる。
出そう、出せない、
伝えたい、やっぱり無理、
今はスリムな足をしてヨソヨソしく目を閉じ立っている郵便ポストだが
昔はどうぞどうぞと大きな口を開けどっしりと構えている。
当時の郵便ポストはいろなん恋の右や左を飲み込んでくれていたのだろう。